『Terroir テロワール』
ワインの世界で「テロワール」は欠かすことのできない言葉です。気候や土壌、地形、そしてそこに携わる人の営みまで含めて生まれる、その土地ならではの個性を指します。私は、テロワールとは単にその土地でぶどうを栽培し、ワインをつくれば自然に表れるものではないと考えています。その土地を理解し、品種に合わせて最適な栽培を行うことで初めて、土地に潜む個性がぶどうの品質として表現されると考えます。
『甲州』
甲州は、そのテロワールを表現することが難しい品種とされてきました。一般的に、テロワールは一定以上の成熟度、すなわち十分な糖度を獲得したときに品質として表れやすいと考えられている中、甲州は欧州系ぶどうと比較して糖度が上がりにくい特性を持っています。更に、その特徴として語られる柑橘系の爽やかな香りは成熟の比較的早い段階から現れるため、十分な成熟を待たずに収穫されることも少なくありませんでした。そのことが産地ごとの個性をやや見えにくくしていた要因だったのかもしれません。
『登美 甲州』
サントリーは登美の丘での長年にわたるぶどう栽培の経験の中で、「完熟」させることで本来の個性を引き出すことに挑戦してきました。甲州もそのひとつです。
登美の丘は、高い標高と粘土・シルト質土壌の特性により、ぶどうを樹上で長く成熟させることができるテロワールを備えています。
さらに、甲州の系統調査で高糖度が期待できることが分かった優良系統の苗木導入や甲州の栽培特性に合わせた作業設計にも取り組み、これらの相乗効果によって、これまでにない凝縮感を持つ甲州を生み出してきました。その成果を象徴するワインが「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州」です。
『結実』
2022年に誕生したこのワインは、Decanter World Wine Awards(デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード)で日本ワインとして初めてBest in Show(TOP50)に選出されました。
さらに、同ヴィンテージでIWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリット・コンペティション)でも金賞を受賞し、2024年ヴィンテージではIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)でも金賞を獲得しました。
これら世界的な主要コンクールにおいて、誕生からわずか3年足らずで金賞以上の評価を受けることとなり、このことは日本の白ワイン、そして甲州ワインとして初めての快挙です。
この結果は、甲州という日本固有品種が世界の白ワインの舞台で認められただけでなく、この品種が持つテロワールを表現する力までもが評価された可能性を示すものでした。
私はこれを、甲州ワインにとってエポックメーキングな出来事だったと考えています。
『挑戦』
そして私たちは、その知見を登美の丘だけにとどめることなく、約10年前から新たな産地での甲州栽培に取り組んできました。山梨県内3か所、長野県内1か所。私自身も全ての圃場で植え付けから畑づくりに携わってきましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
寒冷地で芽が出なかったこと、想像と異なる土質に直面したこと、新しい技術の導入に悩み続けたこと。それでも試行錯誤を重ねる中で、それぞれの土地が持つ個性が少しずつ見えてきました。長野県立科町では伸びやかな酸、山梨県南アルプス市では豊かな香り、甲斐市双葉地区では華やかで透明感のある味わい、中央市豊富地区では成熟由来のふくらみ。同じ甲州でありながら、それぞれが異なる魅力を持っていました。
『響き合うテロワール』
これらの成果は「ワインのみらい」シリーズで検証してきましたが、その過程で興味深い発見がありました。それぞれの産地の個性は単独でも魅力的ですが、融合することで互いを打ち消すのではなく、むしろ引き立て合うことです。複数のテロワールが響き合うことで、単一産地では表現できない奥行きと複雑さが生まれました。登美の丘で培ってきた「テロワールをぶどうの品質に反映させる力」と、「4つの産地が持つ個性」。その双方を活かして生まれた新しい甲州の姿が「SUNTORY FROM FARM THE甲州 テロワールアンサンブル」です。
『THE甲州 テロワールアンサンブル 2025』
一つひとつの土地の個性を尊重しながら、それらを調和させることで生まれた新しい味わい。その一杯には、私たちが積み重ねてきた挑戦と、甲州という品種の未来への期待が込められています。ぜひグラスを傾けながら、それぞれの土地が奏でる個性のハーモニーと甲州の新たな可能性をお愉しみください。
登美の丘ワイナリー 栽培技師長
大山 弘平