『天の恵みと、住みにくい日本の風土の中で精いっぱい生きているヨーロッパ系品種の生命力、目に見えない微生物の不思議な働き、そして人間の知恵、いますべてがここに結晶となったのだ。ぶどう作りに生きてきた人間として、これ以上の望みがあるだろうか。自然の営みの前に自分自身が小さく見え、また喜びの中で大きくなったように思えた。私は心の中で叫んだ。「あとは、これでどこにも負けない“貴腐ワイン”を造るのだ!」 』
上記は、当時のワイナリー長:大井一郎が書いた著書「貴腐ワイン誕生す」の一節です。
日本初の貴腐ワイン「ノーブルドール」の誕生を描いたこの本ですが、前年、完熟を待ったために雨により病気が広がり大きく収穫量を落とした悪夢の年であったのにも関わらず、翌年、貴腐ぶどうの可能性に賭け収穫を待つ間の葛藤や、当時日本では未知のものであった貴腐ワインをつくるために海外の文献を漁って試行錯誤したり、酒税法による表示で、当時の法律では糖度から「雑酒」に分類されてしまうところイメージが悪いので「果実酒」表記にできるように国会に陳情する等の姿がリアルに描かれていて、その決断と情熱には感服します。
貴腐ワインには、世界3大貴腐ワインと呼ばれているものがあります。
ハンガリーのトカイ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、フランス・ボルドー地方のソーテルヌがそれにあたりますが、最も古いトカイが生まれたのが1600年代で、戦争のため収穫が延びた事により貴腐が生まれたという伝説が残っています。その甘美で独特な味わいから、フランスのブルボン王朝全盛期の太陽王ルイ14世が「ワインの帝王、帝王のワイン」と賛辞した事は有名です。
その次に生まれたのが、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼで、ぶどう収穫の手紙を持たせた大僧正の使者が途中病気で倒れてしまい伝達が遅れ、収穫が遅れ腐敗が進行したぶどうを醸してみたら甘美なワインが出来たと言われているのが1775年。
フランス、ソーテルヌの貴腐ワイン誕生も同様のエピソードで、ぶどう園の領主がトラブルで旅先からの帰りが遅れて収穫の号令が出せず、仕方がなく腐敗した果実をワインにしたら甘口の美味しいワインが出来たと言われています。これが1870年代となります。
そして、日本で貴腐ワインが生まれたのが1975年の事で、面白い事に100年ごとに、この希少な貴腐ワインの新たな産地が生まれています。
ヨーロッパの産地は、いずれもトラブルによる偶発的なエピソードが発端となっていますが、登美の丘ワイナリーでは、貴腐果の発見は偶発的ではあったものの、ワインづくりにおいては、前例となる貴腐ワインを参考に意思を込めてつくられたものでした。
ファーストヴィンテージのリリースから半世紀が経とうとしている今、改めて我々登美の丘ワイナリーの貴腐ワインの方向性が話し合われる事になりました。
恐らく、最も温暖な気候でつくられる貴腐ワインであろう「ノーブルドール」は、近年の気候変動に伴い、様々な変遷を経てきましたが、2009年のノーブルドールをリリース後、後に続くヴィンテージの中味を改めて評価し、先の3大貴腐ワインとも比較試飲をし、登美の丘ワイナリーの貴腐ワインが目指す味わいを徹底的に議論しました。
結論としては、濃厚で力強い、誰もが「一口飲んで幸せを感じられるワイン」が、ノーブルドール(高貴なる金)の名に相応しいワインの味わいである、という事です。
その結果、各ヴィンテージの個性を見極めた厳しいセレクションにより、貴腐ワインに新たなラインナップが加わる事になりました。
最高峰はあくまで「ノーブルドール 」最新ヴィンテージは2010年です。そして1978年以来の復活となる「ノーブルダルジャン」はセカンドラベルで、今回は2011年と、2013年に2005年の原酒をブレンドした「スペシャルアッサンブラージュ」という2銘柄をリリース。(マルチヴィンテージにより味わいのバランスを取るという新たな挑戦もしています。)
そして、2012年の貴腐ワインは「貴腐 2012」という名で、ハーフボトルのみのリリースで貴腐ワインの入門編として最適な銘柄としてリリースする事にしました。
強調しておきたいのは、銘柄の違いはヴィンテージによる作柄の違いによるもので、それぞれの年につくり手が掛けた労力や情熱は全て一緒だという事です。
1975年の収穫時同様、貴腐化するぶどうを注意深く見守り、一房一房、一粒一粒にまで神経を使い、毎年最高峰の「ノーブルドール」を目指しているのです。
それぞれの年にそれぞれの苦労や想いがあり、それがそれぞれのワインに集約されています。
今回、新たなラインナップが加わる事により、貴腐ワインの楽しみ方も広がると思います。特別なハレの日の食前酒や食後酒としてお楽しみいただくのはもちろん、スイーツと一緒にご褒美タイムに楽しんでいただいたり、ご贈答品にご利用いただいたり、色々なシチュエーションで貴腐ワインをお楽しみいただければと思います。
>>貴腐ワイン一覧はこちら
■本文内でご紹介したワイン
【ワイナリー&ワイン日和限定】登美<ノーブルドール> 2010 オリジナルボックス入り
【ワイナリー&ワイン日和限定】登美<ノーブルダルジャン> 2011 オリジナルボックス入り
【ワイナリー&ワイン日和限定】登美<ノーブルダルジャン> スペシャルアッサンブラージュ オリジナルボックス入り